どうせ人の気持ちなんかわかんないしっ。つーかあたし他人のこと興味無いからー。そんな事言っても俺の気持ちはわかんないでしょ。

という台詞は20数足らずの人生の中でも腐るほど聞いてくるわけですよ。自分としましては、心の底どころか毛細血管のヘモグロビンの底からだからどうしたのと言ってあげたい素敵台詞ナンバー1です。そんなことは物心ついた人間なら誰でも薄々感じてんじゃないかと思ってます。それでも言っちゃうのはそんなこと言いつつやっぱりみんな自分のことをわかってほしいんだとも思ってます。


人生80年。そんな生物が日本だけでも1億人とちょっと。そんだけいたらその分だけドラマがあるわけで、だからって全部が映画化されるわけないんです。そんな何でも無い人たちの、何でもないわけなかった人生の隙間をドライ感たっぷりに描かせると右に出る人があんまりいない吉田修一さんです。


吉田修一は思うところあって遠ざけてたけど、ひなたを読んで改めて好きになりました。この乾いた文体はいい意味できつい。やっぱり分かり合えない他者とそれでも求める自分と、クサい言い方ですが、そのことを改めて提示されることで逆に知る安心感もあります。東京という場所を舞台とすることでより活きてきてると思います。

※蛇足ですが、吉田修一の本を読むならば二冊読んで判断するのが吉です。彼の作品は長崎を中心に田舎を舞台にしたものと、東京を舞台にしたものの二種類があるのですが、片方だけ読むと、(特にひなたのようなものから先に読むと、)流行に乗ったお洒落作家だと感じてしまうからです。どちらの作品も意図するところは同じですが、その表現が間逆です。乾燥した空気感を漂わせる東京編と汗臭さすら感じる湿っぽさを伴った長崎編。両方読むことで東京を舞台にした時の妙にクールな文体が狙ったものであるとわかります。

個人的には、長崎乱楽坂かwaterがお勧めです。一押しはパレードですが、こっちは東京が舞台です。



ひなた (光文社文庫 (よ15-1))ひなた (光文社文庫 (よ15-1))
(2008/06/12)
吉田 修一

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ひなた。それぞれに人には言えない闇を抱える4人の視点、4つの季節を通して描く群像劇。群像劇というと一つのテーマだったり出来事に収束していくのが旨みですが、ひなたに関してはあまり当てはまりません。短編や群像劇が多い吉田修一の作品の中でも群を抜く平行線っぷりでした。

同じ季節同じ家同じ生活の中を生きている4人ですが、考えは最後まで交差せず全く違う思惑の中を生きています。結局彼らの抱える闇は解決せずに終わるのですが、それが吉田修一。わかんねーもんはわかんねーんだからわかんねーなりに受け入れるんです。説教臭い哲学染みた文章が無い分かなり早く読めますが、最後まで埋まらない隙間に切なくなります。ダウナーになります。
3冊読んでの評価ですが、、別に村上春樹は好きじゃないことを予め言っておきます。

嫌いってほどでは無いけれど、あの洒落た文体が僕にはどうにももったいぶったモノに見えてしまうのです。サラダの描写がうまいことは認めますが。

いやしかし、作家としては独自のアイデンティティを持っている点で僕の中の評価は高いです。あの徹底したお洒落な文体と、絶対こんな男いねーよと思わせる良い意味のリアリティの無さは他の追随を許しませんね。言うならばバブルの残り香のような芳醇さです。こうありたいとか、本当はこんなはずとか、等身大じゃないとか、理想の「私」と「セイカツ」を描かせたら右に出るものはいないと思います。

小説って町田康とか、角田光代とかはどっかにいそうな駄目人間がいっぱい出てくる嫌なリアリティに溢れたものと、伊坂幸太郎とか村上春樹みたいになんともスマートな人たちが織り成す理想論的なものの二種類あると思います。小説は娯楽だし、別にどっちに偏って読んでるわけでも無いけど、僕が村上春樹をあまり読まないのは、スマートすぎる登場人物に圧倒的な壁を感じるからですね。要するに自分が駄目人間なだけだけど。

でも、伊坂幸太郎は言葉の使い方や設定が村上春樹より若干チープな感じがして好きなんですね。チープというより、幾分遊びが入った言い回しをしてくれる感じです。音楽の好きな死神であったり、神様のレシピであったり、小難しい感じが無くてすんなり入っていけます。


グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)
(2007/06)
伊坂 幸太郎

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極悪企業のバカ息子が殺されたことから始まる殺し屋二人と一般人一人のハードボイルド小説。3人の視点が交互に描かれて驚愕のラストに向けて物語は収束していき、ます。

確かに面白い。他の小説でも使われているように多視点で構成された物語に大小の複線を散りばめて最後に一気に織り上げる手法です。登場人物もあえて特徴を小出しにすることで無理なく理解していける点も相変わらずいい感じ。思い出せるレベルの細かい複線の回収が読んでて心地良かった。

でも好きじゃないんです。どうもわざとらしい台詞が鼻についてしまう。そのせいか架空の引用も空回りしてしまう。主人公がどうしてそこまで押し屋に拘るかの説得力もほとんど感じられなかった。他の作品と比べたときに妙に狙ったような言い回しが多かったせいかと思う。そのせいで登場人物に厚みが感じられなかったかな。


伊坂幸太郎はすいすい読めるのが好きで、グラスホッパーで読了6冊目くらいです。どの小説もちょっと現実離れした能力や状況を作り出し、それを現実とリンクさせていく構成となっています。専門書とか小難しい小説を読んだ後のリフレッシュを兼ねて読みたい現代版御伽噺というのが僕の位置づけです。

グラスホッパーはその面で少し弱かった。殺し屋とか人を自殺に追い込んでしまう能力とか、現実離れはしてるんだけど、いるかもしれないって言う中途半端なリアリティを感じてしまった。


とは言ってもミステリーとして面白い小説であることは確かです。ですが、これを最初に読むよりはオーデュポンの祈りか死神の精度の方をお勧めします。


オーデュボンの祈り (新潮文庫)オーデュボンの祈り (新潮文庫)
(2003/11)
伊坂 幸太郎

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現代社会から隔絶されているという不思議な島で起こった喋る案山子殺人事件
全てを見通す案山子が出てきます。




死神の精度 (文春文庫 (い70-1))死神の精度 (文春文庫 (い70-1))
(2008/02/08)
伊坂 幸太郎

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音楽好きな死神の悲喜交々
死神っていうネガティブな存在を音楽好きって設定を加えるだけでこうも人間臭くなるもんだなぁと。